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住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)についての考察



1.住基ネット、賛成?反対?

 平成14年8月5日、法案成立から3年の準備期間を経て、ついに「住民基本台帳ネットワーク」が稼働した。この本番稼働開始の少し前から、世論は「反対」の大合唱となり、マスコミも国民を煽るような報道を続けた。その結果、ネットワークに接続しない自治体がいくつか出てきたり、住民票コードの通知票を市町村に突き返す運動が広がったりしている。ある物事に対して賛成/反対があることは別に構わないし自然なことだと思うが、今回の世論の反応には私自身納得しかねる部分がある。

 私自身もよく「おたくは住基ネットに賛成?反対?」などと聞かれる。これは私の中ではそんな簡単な話ではなくて、部分的に賛成のところもあれば、部分的に反対のところもある、というのが正直なところである。こう書くと「そんな玉虫色の意見で議員が務まるのか!」というお叱りも受けそうだが、ここはちゃんと情報を整理して、追求すべきは追求し、協力すべきは協力するといった考えを持たないと駄目だとはっきり言っておく。それを「玉虫色」と言われれば仕方がないが、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という形で何もかも否定することの方がよほど危険である。以下その理由について検証していきたいと思う。


2.そもそも住基ネットって何?

 住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)についてはマスコミで報道され尽くした感があるので、だいたいのイメージは掴めている方が多いと思う。しかし同時に誤ったイメージも多く流れており、それを信じてしまっている人も多い気がする。まず、「なぜ今住基ネットなのか?」ということから整理する必要がある。

 2000年頃に小渕・森首相の時に「e-Japan戦略」というものが持ち上がり、日本は電子政府・電子自治体の導入などにより「5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す」と目標設定された。この戦略の核である電子政府・電子自治体の基盤として、住民基本台帳ネットワークが位置づけられている。このネットワークを構築することを目的として、「住民基本台帳法の一部を改正する法律案」が国会で審議され、可決されていった。その経過は以下の通りである。

1998年 3月10日「住民基本台帳法の一部を改正する法律案」を閣議決定

第142回通常国会に提出
1999年 6月15日第145回通常国会において衆議院で可決
8月12日同じく参議院で可決
8月18日公布

この法案は附則により3年以内に施行することとされた。その期限が2002年の8月であったので、今こんな大騒ぎになっているのである。しかし本当に住基ネットを問題だと考えるのであれば、この法律が成立した時点でもっと意見を出すべきであった感は否めない。

 では機能面から住基ネットを見てみることにする。この住基ネットでやり取りされるデータは、本人確認情報すなわち住所・氏名・生年月日・性別と、全国民に割り振られる11桁の住民票コードと変更情報の6つである。これにより住民票関係の事務手続きが大幅に簡素化されるとされている。

○全国どこでも住民票の写しの交付が可能
○転入・転出手続きの簡素化
○国・都道府県への届け出の簡素化

がその実際の内容となっている。ただし全国で住民票の写しが交付できるようになるのは、2003年8月以降となっている。2003年8月からは市町村独自に住民票カードを希望者に有料で発行することができるようになり、図書貸出カードとの融合など市町村独自のサービスも検討されている。
この住基ネットを通じて情報を利用できる国の機関・事務は、10省庁93事務に限られているが、これをパスポート発給手続きなどを加えた264事務に拡大する「オンライン化3法案」が国会に提出され現在(H14.8時点)も審議中である。また民間の会社などが住民票コードを集めたり、利用したりすることは禁止されている。

 次に機器やネットワークの構成について見てみる。総務省にメインとなるサーバがあり、都道府県には市町村とつなぐ中継サーバがある。市町村はデータを都道府県サーバとやり取りし、都道府県サーバが総務省のサーバとデータをやり取りする。この住基ネットのネットワークは、e-Japan戦略の中で同時に進められるLGWANとは別のネットワークとなっており、IP-VPNと呼ばれる仮想専用線で市町村と都道府県と総務省が接続されている。市町村には照会等を行う端末が設置されており、その端末および利用者・利用IDカード等は厳重に管理されることになっている。


3.誤解その@「接続すると漏れる?」

 平成14年7月22日に、福島県東白河郡矢祭町が全国で初めて「住基ネットに接続しない(参加しない)」と表明した。その後、東京都杉並区、東京都国分寺市、三重県小俣町、三重県二見町などが次々と「住基ネットからの離脱」を宣言し、神奈川県横浜市は「市民が選べる選択制を採用する」と発表した。こうした流れもあり、国民の間からは「接続すると自分の情報が漏れる」「接続するとはけしからん」「うちの議員は何をやっているんだ」という声が相次いだ。

ここで検証したいのは、まず「漏れるとはどういうことを指しているのか?」ということである。「住基ネット反対」を唱える人が、一体何をもってして「漏れる」とするのか、その意識はまちまちではなかろうか?と想像している。
  1. 業者に自分の情報が渡ること
  2. 国(総務省)に自分の情報が渡ること
  3. 都道府県に自分の情報が渡ること
  4. とにかく自分の情報が自分の住む自治体以外に出ること
  5. 自分の住む自治体で自分の情報が自由に取り出せること
などがあるのではないだろうか?

1.は今の法律・システムでは無いことになっている。業者が住民票コードを集めようとすることも禁止されている。それでもあの手この手で集めて、裏で取り引きされることは想像に難くないが、別に住基ネットでなくてもそういう名簿は出回っていたので、「住基ネットになったから漏れた」とは言い難い。住基ネットでなくても「今年20歳になる人にリスト」とか「今年小学校に入学する児童のリスト」なんてのは「誰でも取れることになっている」からである。

2.はシステムの詳細が明らかにされていないので何とも言えないが、聞くところによると全国サーバに全国民の情報は集まっていないようである。○○県△△市にサーバは設置されているようだが、どうやら中継の役割を果たしているようである。これが本当なら「漏れた」とは言えないが、そこは確証がないので保留としておく。

3.については、間違いなく渡っている。基本的に住民の移動などによるデータのやり取りは都道府県サーバを通じて行うことになっており、6月下旬の時点で「全ての市町村が都道府県に住民データを送信済み」である。「漏れる」の意味がここになるのなら、それは間違いなく「漏れた」ことになる。「ほら見ろ、けしからんじゃないか!」という人もいると思うが、少し冷静に考えていただきたい。6月下旬の時点で「全ての市町村が送信済み」なのである。つまり矢祭町も横浜市も既に送信済みなのである。住基ネットに接続して無くても「漏れた」と言える状況なのである。これら住基ネットからの離脱を表明した自治体は、都道府県に対してデータの削除を求めているようである。データの削除には都道府県及び国の同意が必要とのことだが、いまだ同意したという話は聞こえてこない。東京都・神奈川県は拒否したという話も聞こえてきている。一応離脱を表明した自治体のデータはブロックされているようであるが、「漏れる」の定義からすれば間違いなく「漏れている」と言える。

4.これは3と同義である。他自治体からの照会は都道府県サーバに対して行われるので、自分のところのサーバにはアクセスされない。自分のところが定期的に行っている都道府県サーバへのデータ送信に含まれていれば、そこで自分のところからデータが出たと言える。ただし、基本的にデータは既に都道府県サーバにあり、本番稼働以降に送られるのは変更が生じた場合だけである。

5.これはできる。できるが、住基ネットでなくてもできる。ただし「自由に」の部分は色々な解釈ができて、悪意をもってすれば何だってできてしまう、ということであり、不正照会等が発覚すれば関係者は当然処分される。

それからシステム的な話であるが、ネットワークは水道管ではないので、線を繋いだら情報が出ていってしまうというものではない。「出さなければ出ない」ようになっている。そこにも随分誤解がある気がしてならない。「接続」=「漏洩」ではない。


4.誤解そのA「番号で管理するのはけしからん?」

 「ウシは10ケタ、人は11ケタ」というキャッチコピーで、まるで我々日本国民が囚人になったかのような反対運動がもっともらしく盛り上がっている。

 ←こんなの(©Mad Amano)

気持ちは分からなくもないが、顔にペインティングしたりしてまで反対運動をしている人の中に、「番号以外で台帳を管理する方法があるか?」という問いに答えられる人はどれくらいいるのだろうか?そもそもこの質問の意味が分かる人はどれくらいいるだろうか?

住民基本台帳は紛れもなく「データベース」である。データベースである以上「主キー」が必ず必要となる。住民基本台帳を考えた場合、名前にせよ住所にせよ、主キーとなりうる項目は(たとえ複数項目を合わせたとしても)見あたらない。となれば、番号なり記号なりを割り振るしか方法がない。ということは、知らされていないだけで、住基ネットでなくても住民基本台帳のシステム上は番号が振られていた、と考えて間違いない。振られてなければ検索もできないし、当然住民票の発行もできない。今私がoracleなりSQL Serverがインストールされたサーバを渡されて、「住民基本台帳のシステムを構築しなさい」と言われたら、データベースの設計時点でまず住民番号を付けるであろう。それを知らずして、今回の番号を囚人番号と結びつけるのは危険と言わざるを得ない。

もっとも、これまでの番号は市町村独自の番号である。これを国で一意に付けて管理することに変わったことについての批判であればまだ分かる。また国がこれからなんでもかんでもこの番号で国民を扱うのはけしからん、という意見も分かる。しかし私が聞いている限り、「番号を付けることはけしからん」と言っているように聞こえる。だとしたらそれは余りにも偏った見方と言わざるを得ないし、そういう感情論では議論になり得ない。



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